2025.10.10次世代のEコマース「エージェンティックコマース」とは?

  • #AI
  • #不正トレンド
  • #EC
  • Facebook
  • はてなブックマーク

本記事は、Sift Science, Inc.のBlog記事「The Next Stage of E-Commerce: What is Agentic Commerce?」を日本語に翻訳したものです。

本記事の著作権は、Sift Science, Inc.および同社の国内パートナーである株式会社DGビジネステクノロジーに帰属します。

Sift Trust and Safety Team 著 / 2025年9月29日

The Next Stage of E-Commerce: What is Agentic Commerce? 次世代のEコマース「エージェンティックコマース」とは?

「エージェンティックコマース(Agentic Commerce)」は、AIを活用したコマースの進化系として注目されている新しい概念です。Eコマース環境で消費者の代わりにAIエージェントがタスクの実行、意思決定、取引処理を行う仕組みを指します。

従来のAIツールはユーザーが入力して初めて動くものでしたが、エージェント型AIは一定の自律性を備えています。データを分析し、文脈を理解し、新たなシナリオにもリアルタイムで適応することが可能です。

この取り組みは、Mastercardの「Mastercard Agent Pay」、Visaの「Visa Intelligent Commerce」で、実証実験が始められています。こうした新たなモデルは、ユーザー体験をよりスムーズにし、企業にとってはサービスをより効率的に拡大できるようにする一方で、新たなリスクも抱えています。 

エージェントシステムは自律的に動作するため、悪用されれば、不正購入や個人情報の漏えい、また不正プロンプトに反応するなど、不適切な挙動を引き起こす可能性があります。利便性の高さは魅力的ですが、利用者が被害にあって初めて気付くような不正リスクも潜んでいます。AIの機能が拡大し続ける中、企業はイノベーションの追求と同時に適切な安全対策を講じ、自律型エージェントが本来守るべきユーザーを逆に搾取することがないように、十分なセーフガード(安全策)を整える必要があります。

「エージェンティックコマース」はどのように進化していくのか?

「エージェンティックコマース」の核心にあるのは、”人間の直接的な操作からより自律的に行動できるAIエージェント”の存在です。目的は、ユーザーが「いつ」「何を」必要としているのかをエージェントが把握し、適切なタイミングで注文を行うことで、ショッピング体験をよりシンプルでスムーズなものにすることです。

これらのAIエージェントは、過去の利用履歴や行動から学習し、ユーザーのニーズの変化にあわせて成長・進化していくよう設計されています。 

例えば、AIエージェントが洗濯洗剤など日用品の購入パターンを把握し、在庫が切れる前に自動で発注してくれるようなケースが考えられます。あるいは、特定の日時・目的地の航空券情報を、あらゆるサイトから横断的に収集・比較して最安値を提示する使い方もあるでしょう。重要なのは、これらのエージェントが、ユーザーの購買パターンや好みを取り込みながら成長し、時間の経過とともに、より効果的かつ正確に動作するようになる点です。

 「エージェンティックコマース」はもはや未来の話ではありません。Gartnerによれば、2028年までにエンタープライズ企業の33%が業務にエージェント型AIを導入すると予想しており、自動化や顧客体験向上の手法を大きく見直す段階に入っていることを意味します。目指すのは、自律性と責任を備えたAIエージェントによって実現される、より柔軟で拡張性があり、パーソナライズされたコマースエコシステムです。

Eコマースの「エージェント」と「ボット」は何が違うのか?

主な違いは「自律性」と「知能の深さ」にあります。 

従来のEコマースのボットは「受け身型」で、FAQへの回答や注文追跡のサポートなど、決められた範囲内の問いかけに対して応答する仕組みです。それに対し、エージェントモデルにおけるEコマースのエージェントは「能動的かつ適応型」となっています。ユーザーの意図を読み取り、自ら判断し、継続的な指示がなくても、複数のチャネルを横断して行動することができます。

ボットは質問への回答や荷物の追跡のみにとどまる一方で、エージェントはユーザーのニーズを把握し、最適な取引条件を探し出し、商品を見つけて決済購入手続きのを完了からし、配送・や返品の管理まで、購買プロセス全体を担うことができます。さらに、エージェントは経験を積むほど学習し、進化していきます。そのため、従来のボットよりも効果的で文脈を理解した対応が可能になります。

2,700人のコマースリーダーからのインサイト

ビジネスの観点では、Salesforceが2,700人のコマースリーダーを対象に実施した最新調査によると、小売、マーケットプレイス、デジタルプラットフォーム全体において、AIの戦略的活用に対する企業の関心が高まっていることが明らかになりました。回答者は、パーソナライズ化、業務効率化、不正検知をAI活用における最優先事項として挙げています。多くの企業がすでに、エージェント型機能の実験的導入を進めています。具体的には、在庫状況の可視化、顧客の好みに基づくパーソナライズレコメンド、より迅速で関連性の高いオファーの提示などが挙げられます。

この調査からは、AIが単なる支援ツールではなく、収益や成長を牽引する戦略的パートナーとして企業に認識され始めている、という変化も読み取れます。認企業は常に、次の大きな市場の変化に備えており、AI活用フェーズにおいては「エージェンティックコマース」が重要な投資・検証領域となっています。

Eコマースエージェントの5つの特徴

Eコマースエージェントは、従来のツールとは異なり、自律的に動作し、適応し、複数のプラットフォームにまたがって統合的に機能するよう設計されています。以下の5つのコア特性が、エージェントの基本的な動作として定義されています。

  • 役割:各エージェントは、最適な価格の検索、的確な商品レコメンド、日用品の在庫管理など、特定のタスクを中心に設計されています。
  • データ:過去の購入履歴や閲覧パターン、信頼できる情報源から学習し、パーソナライズされた関連性の高い提案を行います。
  • アクション:ユーザーのクリックを待つことなく、エージェントが自動で日用品の再注文、クーポンの自動適用、配送状況の追跡などを行い、時間と手間を削減します。
  • 安全対策:エージェントが機密情報を共有したり、不適切な購入を承認しないように定期的な安全チェックを行います。これにより、ユーザーの情報や資金が保護されます。
  • チャネル対応:エージェントは、ユーザーの好みやニーズを理解するために、複数のチャネル(Webサイト、アプリ、メッセージングプラットフォーム)を横断して動作する必要があります。これにより、より的確な判断が可能になる一方で、扱う情報量が多いため、より強固なセキュリティ対策も求められます。

消費者視点の「エージェンティックコマース」:便利さの裏にある脆弱性

消費者の観点で見ると、「エージェンティックコマース」には魅力的な可能性が広がっています。例えば、食料品が少なくなったときに自動的に再注文したり、旅行予約の際に最安値を交渉してくれたり、あるいは、サブスクリプションの管理を自動で行ってくれる、など。こうしたエージェント型のシステムは、時間の節約、コストの削減、買い物のプロセスそのものを大幅に簡略化します。

しかし、これらのエージェントを強力にしている自律性こそが、ユーザーを新たな不正リスクにさらしてしまう可能性もあります。AIエージェントは、偽の商品リスト、不正に操作されたレビュー、なりすましの販売者アカウントなどに騙されてしまう恐れがあります。ユーザーの知らないうちに購入を承認したり、エージェントが乗っ取られてしまった場合には、意図せずに支払い情報へのアクセスを許可してしまい、不正犯に金融情報が漏洩する可能性もあります。ソーシャルエンジニアリング、誤解を招くようなプロンプト、そしてAIモデルに対する敵対的攻撃はすべて、悪用の経路になり得ます。

消費者が「エージェンティックコマース」を安心して利用するためには、信頼とセキュリティが重要な基盤となります。適切な安全対策がなければ、「便利さ」と「悪用」の境界線が曖昧になり、一般ユーザーがこれまで以上に不正の被害に遭う可能性が高まります。「エージェンティックコマース」のの導入を検討している企業は、Siftのような不正対策サービスに投資することを推奨します。Siftは、不審な購買パターンや「要注意」とされるユーザー、不正な取引履歴などを検知することが可能です。

「エージェンティックコマース」のリスク

「エージェンティックコマース」は大きな注目を集めていますが、企業がAI主導のエージェントを本格的に導入する前に、潜在的な落とし穴に注意する必要があります。特に注意すべきリスクは、主に次の3つです。 

 1. ユーザー不在の意思決定:AIエージェントは、ユーザーの直接的な監督なしに個人情報に基づいて行動する可能性があり、ユーザーが同意していない購入や契約が実行されてしまう可能性があります。これは、プライバシー問題やコンプライアンス違反につながるリスクがあります。

 2.不正にさらされるリスクの拡大:エージェントはショッピングアプリ、決済ゲートウェイ、SNSなど複数のプラットフォームを横断して動作するため、不正犯に狙われる範囲が拡大します。1つのチャネルが侵害されると、関連するすべての取引が乗っ取られる危険性があります。

 3.ソーシャルエンジニアリングの入り口に: AIは操作される可能性があり、不正犯は誤誘導のプロンプト、偽のレビュー、なりすましの通信などを利用して機密情報にアクセスしようとする可能性があります。エージェントが正当な入力と悪意のある入力を区別できない場合、意図せず不正行為を助長してしまう可能性があります。

「エージェンティックコマース」のメリット

「エージェンティックコマース」は、ニーズの予測、判断、配送管理など、あらゆる購買ステップをAIエージェントに任せることで、従来のショッピング体験を大きく変える可能性を秘めています。

 1. 利便性と効率性

AIエージェントが商品や価格データを自動で収集・評価することで、ユーザーが商品を探したり、比較したり、購入判断に悩んだりする必要がなくなります。その結果、買い物にかかる時間を大幅に削減しつつ、高い精度や関連性は維持されます。

 2. 高度なパーソナライズ

AIエージェントは、過去の購入履歴、閲覧傾向、行動パターンからユーザーの習慣や好みを学習します。日用品の再注文から新しいガジェットの発見まで、一人ひとりに最適化されたレコメンドが可能になります。

 3. よりスマートな取引と節約

表面的な割引ではなく、最適な条件を徹底的に探し出すことができます。レビューの分析、価格変動の追跡、販売者との交渉、クーポンの自動適用などを通じて、最小限の手間で最大の価値を提供します。

 4. エンドツーエンドのショッピング支援

エージェントが商品を選定した後は、決済、配送、追跡、そして必要に応じて返品まで一括して対応します。ログインやフォーム入力、サポートへの問い合わせも不要で、ユーザーの好みに基づいてすべてが自動化されます。

「エージェンティックコマース」導入の第一歩

「エージェンティックコマースの導入は、適切なユースケースの見極めと、責任あるAI運用のためのフレームワーク構築から始まります。その過程では、データの整備状況、ガバナンス、エージェントの責任設計といった課題に、早期の段階から取り組む必要があります。

AIエージェントの高度化に伴い、複雑なビジネス課題を解決する役割はますます拡大していくでしょう。膨大なデータを瞬時に分析し、人間では見過ごしてしまうようなパターンを特定し、コマースシステム全体で即時に行動を起こすことができます。こうした自動化により、業務パフォーマンスを向上させるだけでなく、チームがより戦略的で価値の高い業務に集中できるようになります。今のうちに「エージェンティックコマース」への投資をはじめ、強力な不正検知ソリューションと合わせて導入するる企業は、将来の需要への対応力、競合優位性、そして信頼されるデジタル体験の大規模提供という面で、一歩先を行く存在となるでしょう。