本記事は、Sift Science, Inc.のBlog記事「Beyond Transactions: Why the Full Consumer Journey is Critical for Effective Fraud Prevention」を日本語に翻訳したものです。
本記事の著作権は、Sift Science, Inc.および同社の国内パートナーである株式会社DGビジネステクノロジーに帰属します。
Kris Nagel 著 / 2025年5月29日

2011年にSiftが創業した当初、SiftはAIを活用して決済不正対策を実施する、業界でも先駆的な企業でした。なかでもAIの一分野である機械学習を用いて人間では見抜けない不正パターンを検出するという発想は、当時としては革新的で、デジタルビジネスが抱える不正の問題を根本から変えようとしていました。しかし、10年以上が経った今、改めて気付いたことがあります。「取引データだけでは、本当に有効な不正対策にはならない」という事実です。
直感に反するかもしれませんが、非常に重要なポイントです。Siftのグローバルデータネットワークの内、取引そのものから得られるシグナルはわずか23%に過ぎません。消費者行動全体の中で、「取引以外の情報」こそが、不正を見抜く重要な材料となっています。

消費者の購買行動全体を見ることが重要な理由
最後にオンラインで買い物をしたときのことを思い出してみてください。クレジットカード情報を入力する前に、さまざまな行動をしていたはずです。例えば、商品を閲覧し、アカウントを作成またはログインし、特定の商品を検索し、カートに追加し、場合によっては一度か二度、そのカートを放棄したことがあるかもしれません。これら一つ一つのタッチポイントが重要なシグナルとなり、それらを時間軸でまとめて分析することで、ユーザーの行動パターンをより立体的に把握することができます。
不正犯も決済画面以外では同様の足跡を残しています。それらの痕跡こそが、取引時点で不正を阻止する重要な手がかりとなるのです。
より良いシグナルが築く「アイデンティティ・トラスト」
Siftは「アイデンティティ・トラスト」という概念を重視しています。これは、デジタル上のユーザーやその行動がどの程度信頼できるかを示す指標です。「アイデンティティ・トラスト」は1回の取引で判断されるものではなく、消費者の行動全体と、時間をかけて蓄積・統合されたデータから形成されます。
実際の運用においては、どのような意味を持つのでしょうか?
- 初回アクセス時のデバイス情報、閲覧パターン、ページ遷移等の動き
- アカウント作成やログインの仕方(重要なIDマーカーや潜在的なリスク指標になります)
- 検索やコンテンツへの反応の傾向(正規ユーザーと不正犯で差が出ます)
- カート操作の流れ(取引情報だけでは捉えられない行動の文脈を得ることができます)
- 購入後の行動(返品パターンやカスタマーサポートとのやり取りなど)
Siftでは、年間1兆件以上のイベントが蓄積されるグローバルデータ ネットワークを活用し、これらの行動を分析することで、正規の顧客と潜在的な脅威を高精度で見分けるパターンを構築しています。
効果的な不正対策のためのデータドリブンの基盤
もし、取引時点だけの不正対策に頼っている企業は、「全体の約77%にも及ぶ、有効なデータシグナルを見落としている可能性がある」点に留意すべきです。それは非効率であり、不正対策全体に致命的な脆弱性を残してしまう可能性があります。
Siftのデータサイエンティストは、最も予兆的な不正の兆候は、多くの場合、取引が行われるかなり前に現れることを繰り返し確認しています。通常とは異なる閲覧パターンを示すユーザー、異常な早さでアカウントを作成するユーザー、またはサイト上の動きがこれまでのパターンと大きく乖離しているユーザーは、不正な購入を試みる前に、Siftのシステムによって高確率で検知されます。
取引中心の考え方から脱却するために
消費者の行動全体を視野に入れた不正対策には明らかにメリットがあるにもかかわらず、多くの企業は依然として取引中心の発想に囚われています。取引こそが最も金銭的リスクが顕在化する場面であるため、この傾向は理解できます。しかし、この狭い視野は、巧妙な不正犯にとって格好の死角になっています。
今日、不正対策の分野で成果を上げている企業は、消費者や不正犯が単一のサイトやアプリだけでなく、プラットフォーム全体にわたって長期間残してきた様々なシグナルに基づき、リアルタイムの不正判断を行っています。こうした企業は、複数のタッチポイントでリスクを早期に評価し、取引段階に到達する前に、より強力な不正対策を実施することで、「アイデンティティ・トラスト」を確立しています。
不正対策の未来は「行動全体ベース」
不正犯の手口が進化し続ける中で、行動全体のデータはますます重要性を高めていくでしょう。Siftでは、消費者の行動全体を通じて新たな不正パターンを検知するよう、機械学習モデルを継続的に改良しています。
巧妙化する不正の脅威に直面しているデジタル企業にとって、結論は明らかです。取引情報だけでは不十分ということです。より効果的な不正対策、そして「アイデンティティ・トラスト」の確立を目指すには、取引データと行動データの両方のシグナルを、時系列で組み合わせて横断的に捉える視点が不可欠なのです。
